生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。
秋の薬草 オトギリソウ:オトギリソウ科生薬名:小連翹(しょうれんぎょう)
オトギリソウの日本漢名は「弟切草」と書きます。10世紀の平安時代、この草を原料にした秘伝薬の秘密を弟が隣家の恋人に漏らしたため、兄が激怒して弟を切り殺し、恋人もその後を追ったという伝説によるものとか、鷹匠である兄が鷹の傷の妙薬として秘密にしていたこの草を、弟が他人に漏らしたため、激怒した兄に切り殺されたという伝説に由来します。
この伝説のため、付けられた花言葉は「怨念」「敵意」「秘密」「迷信」「盲信」と、花言葉でない花言葉になっています。
言い伝えでは、オトギリソウの葉に見られる黒い油点は、斬り殺された弟の飛び血とされています。
伝説のとおり、茎や葉は血止めなどの民間薬として使われてきました。地上部の全草が薬草として利用され、開花期または結実期などに、花や果実がついたままの茎葉を刈り取り、日干し乾燥させたものを小連翹(しょうれんぎょう)と称して用います。
のどの痛み、風邪の咳、口内炎、扁桃炎、歯痛には煎じ液をうがい薬とし、切り傷、腫れ物、湿疹、かぶれには患部に煎じ液を直接塗るか、冷湿布するなどして用います。
これらの効果は、多量に含まれているタンニンによるためで、タンニンの組織細胞を引き締める収斂作用が、細胞が傷ついて出血しているようなときに、引き締めて止血する働きをします。
オトギリソウには同属のセイヨウオトギリがあり、これにも同様の効用があります。
欧米ではオトギリソウ属植物を「St. John's wort」といい、洗礼者聖ヨハネの祝日(6月24日)の前夜、魔女たちが活動するとされるMidsummer Eveningに、この薬草を摘めば悪魔払いになると信じられていたといわれています。
イーバンアト研究所 所長 薬学博士
田部昌弘