生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。
夏の薬草 ゲンノショウコ:フウロウソウ科生薬名:現の証拠(げんのしょうこ)
白花
淡紅
紅色
はじけた実
ゲンノショウコは日本三大民間薬(ドクダミ・センブリ・ゲンノショウコ)のひとつで、日本全土に生育している植物です。
ゲンノショウコには白い花を付ける白色系と、ピンク色を付ける紅色系とがあります。
富士川付近を境に東日本では白花が、西日本では淡紅が、日本海側で紅色の花が多く分布しています。
和名のゲンノショウコは「現の証拠・験の証拠」と書きますが、服用するとたちまち効果が表れることからきています。
そんなことで、イシャイラズ(医者不要)、イシャコロシ(医者殺し)、イシャタオシ(医者倒し)、イシャナカセ(医者泣かせ)などの異名があります。
また、実がはじけると神輿に似た形になることから、オミコシグサ(御神輿草)、カグラクサ(神楽草)、カミサマクサ(神様草)、テンガイソウ(天蓋草)とも呼ばれ、そのほかにも、ロウソクバナ(蝋燭花)、タコノテ(蛸の手)、ネコアシ(猫足)、ウメヅルソウ(梅蔓草)など多くの異名を持つ植物のひとつでもあります。
このゲンノショウコは、江戸時代の本草学者・小野蘭山が「本草綱目啓蒙」(1803)に「根苗ともに粉末にして一味用いて痢疾を療するに効あり。ゆえにゲンノショウコという。是救荒本草の牻牛児(ぼうぎゅうじ)一名闘牛児の種なり」と記しています。
救荒本草は、飢餓に備え、野草を食料の足しにする方法を教えた中国の書物で、薬用植物の書ではありません。
「葉を採ってよく茹で、水に浸し苦味を去り、油と塩で味を調え喰う」にならって食用にされていました。
たまたま下痢の人がこれを食べて良くなったので、思いもかけぬことから下痢止めの薬草として発展しました。このような経緯から、ゲンノショウコは日本で発見された生薬ということができます。
イーバンアト研究所 所長 薬学博士
田部昌弘