家庭薬の昔 日々進歩する家庭薬の昔をお伝えします!

季節の生薬について

生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。

初夏の薬木 ボタン:ボタン科生薬名:牡丹皮(ボタンピ)

  • 初夏の薬木 ボタン:ボタン科 生薬名:牡丹皮(ボタンピ)
  • 初夏の薬木 ボタン:ボタン科 生薬名:牡丹皮(ボタンピ)

ボタンは中国ではその美しさから「花王」と呼ばれています。中国西北部原産の低木の落葉樹です。日本には薬用植物として奈良から平安期に渡来したといわれています。
8世紀には既に栽培化が始まり、文学に最初に登場したのは『枕草子』です。平安時代以降、宮廷や寺院で観賞用として栽培されていましたが、江戸時代になると庶民の手に移り、元禄、宝永の頃、爆発的な流行を呼びました。現在多く栽培されているのは明治時代に開発された品種です。
「立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿は百合の花」と美しい令夫人のたとえで並び称されますが、鑑賞の面からは立って見るのがシャクヤク、座って愛でるのがボタン、周りを巡りながら見るのがユリの花ともいわれます。
漢方の薬能からは、シャクヤク(芍薬)は気がむしゃくしゃして腹が立ち筋肉が突っ張る人に、ボタン(牡丹)は一度座ると立つのが億劫な血瘀(血がうまく流れず停滞する)タイプの人に、ユリ(百合)は気もそぞろで逍遥する人に効果のある生薬です。
生薬のボタンは「牡丹皮」と呼ばれ、根の皮を裂き、中の木心部を抜き去ったものです。品質のよい牡丹皮は、ボタンの花期に開花させず、できるだけ蕾を取り除いて、根に養分が行くように、4、5年かけて栽培し秋に採取します。
「牡丹」は夏、初夏の季語ですが、「牡丹の芽」は春、初春の季語、「狐の牡丹」は晩春、「牡丹焚火」は初冬、「冬牡丹」、「寒牡丹」は冬の季語です。
蕪村をはじめとし多くの俳人がボタンの艶やかさを詠んでいます。 牡丹散って打ちかさなりぬ二三片 蕪村 奈良の長谷寺は牡丹、石光寺は寒牡丹の名所として有名ですね。